« 上一篇下一篇 »

インヂュニア・オートマティック “AMG ブラックシリーズ・セラミック”も

いよいよ、SLSで出発する時間がやってきた。幌を全開にし、スターターボタンを押すと、V型8気筒のファンファーレがリアマフラーから唸りを上げて鳴り響く。何とも言えない快感だ。このエキゾーストノートの前では、インヂュニアが時を刻む明快な音はかき消され、バング&オルフセン社製のハイエンド・サラウンド・サウンド・システムによる1000ワットの音でさえ、脇役的な存在となってしまう。それでも、我々はためらわずにスターターボタンを押す。低速走行時でも外気温が30℃を超えても、オープンカーの車内を快適な温度に保ってくれるエアコンも同時にスイッチを入れる。

SLS AMGは、わがままで扱いにくいスーパースポーツカーではない。マンホールの蓋の上を通り過ぎただけで歯の詰め物が取れてしまうこともなく、クラッチの操作にボディビルダーのような力も必要なければ、ステアリングホイールをバレリーナの繊細な感覚をもって操縦しなければならないわけでもない。どこかまだ、メルセデス・ベンツのクルマらしさを残していて、ギアポジションをDレンジに入れれば、直進走行時もカーブ走行時も軽やかで、サスペンションの利き具合も快適である。インヂュニアの場合も同じように操作は簡単で、扱いやすいリュウズは、リュウズプロテクターで守られていても、手前に回しながら簡単に緩めて、設定のために引き出すことが可能である。また、ストップセコンドと日付早送り機能を装備していることから、時刻や日付も正確に素早く調整することができる。

ようやく、市街地区間終了の道路標識が見えてきた。アクセルペダルを深く踏み込みながら、ドライバーはジェット機に突然変異しはじめたマシンがコースから外れないように努め、助手席のカメラマンはややおびえながらカメラを握りしめる。静止状態から100㎞/hまでを3・7秒で加速する様には、まるで巨人にひと蹴りされたような感覚を覚える。時速が160㎞/hの時点ではまだ、髪を吹き抜ける風が心地よい。320㎞/hという驚異的な最高スピードを試すことのできるアウトバーンがすいていなかったのは幸いだった。これに安心したのは、助手席の同乗者だけではなかった。


自動車とは異なり、時計の場合は速度ではなく、精度の高さが競われる。この点、インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟のプラス1・8秒/日という平均日差は、機械式時計としては最高のレベルに極めて近い。さらに、「文字盤上」や「3時下」など、すべての姿勢間で可能な限り差がないことが望ましいのだが、インヂュニアはこの点、6秒という最大姿勢差によって安定した精度を証明してくれた。また、テンプの振り角も姿勢が変わっても十分に安定していた。


SLSにとっても、規則正しい走行は望ましい。だが、時速360㎞/hまで表示するスピードメーターでは、スピードメーターの針が4分の1回転した時点ですでに時速120㎞/hに達しており、通常の走行速度である50㎞/hや100㎞/hを目盛りから読み取ることは難しい。幸いにも、走行速度は標準装備のクルーズ・コントロール機能でCクラスのモデルと同様に設定できるので、快適な速度を自動的に保つことが可能である。ただ、インストルメント・クラスター(計器盤)の画面については、今日の水準にしてはやや解像度が粗い感がある。

インヂュニア・オートマティック〝AMG ブラックシリーズ・セラミック〟では、SLSのスピードメーターよりも各表示要素の読み取りが容易である。12時と6時のアラビックインデックスとアワーマーカーによって時は簡単に確認でき、文字盤外周のメタルリングに5分刻みで配された数字は驚くほど役に立つ。トンネル内でも時刻を素早く判読できるが、暗所に長時間いると蓄光塗料の発光力が弱くなってしまうのが残念な点である。

しかし、今回、発光力の弱さが大きな問題となることはなかった。太陽の光がさんさんと降り注いでいたからである。さらに我々は、走行シーンに合わせてサスペンションモードを切り替えられる「AMG RIDE CONTROL スポーツサスペンション」のスイッチを発見した。このスイッチで「スポーツ・プラス・モード」を選択すれば、コーナリングをクリーンに決めることができる。このモードではサスペンションが硬めに調整されることから、インヂュニアに搭載された一体型耐衝撃システムには振動や衝撃からローターを守る役割が課せられる。直径46㎜もの巨大サイズのケースをしっかりと快適に手首に留めてくれるストラップは、さながら、ドライバーをしっかりと包み込むSLSのスポーツシートのようである。ストラップには圧迫感がまったくなく、内側のラバー面は、シートに使われているアルカンターラのように肌触りが柔らかい。